目次
異動の引き継ぎ資料をAIと作った、通所リハの理学療法士、室長てつです。
異動が決まった。何から手をつければいいのか。
先に結論を言います。最初に書くべきは手順ではなく、判断です。 手順は画面を見ればまだ分かる。分からなくなるのは「なぜそうしているか」「どこで間違えやすいか」「いつまでに誰へ出すか」。前任者がいなくなった数か月後に困るのは、この3つです。
この記事で使うもの。
- エージェント型AI(Claude Code。Codexでも同様のことができます)
- すでにある業務フォルダ・自分のメモ・業務用カレンダー
- チェックリスト用の表(Excelやスプレッドシートで十分)
- 業務の一覧をAIに作らせる、材料の集め方
- 「判断基準・落とし穴・期限と提出先」をAIに聞き出させるやり方
- 手順書どうしの食い違いをAIに横断点検させるプロンプト
- 渡したかどうかを日付で見える形にするチェックリスト
- 委員会・係の仕事の整理にも使える理由
先に漫画でざっと流れを見たい方は、まんが『迷ったら、どうするの?』をどうぞ。
まず、引き継ぎで実際に何が失われるのかから始めます。
引き継ぎで失われるのは、手順ではなく判断
引き継ぎ書というと、まず手順を書こうとします。「この画面のここを押す」「この順番で入力する」。もちろん要りますが、これだけでは足りません。
手順書があっても、後任は必ずどこかで迷います。迷うのは操作の順番ではなく、次の3つです。
- 判断基準:この状況ならどう判断するか
- 落とし穴:どこで間違えやすいか、何を忘れやすいか
- 期限と提出先:いつまでに、誰に出すか

手順は「やり方」、判断は「なぜそのやり方を選ぶか」。前任者が現場にいる間は、判断は聞けば済みます。いなくなった後に困るのは、判断のほうです。だから、引き継ぎ書には手順と並べて、この3点セットを業務ごとに書き足します。
書き方は次の章から順に進めます。まずは、そもそも「引き継ぐべき業務がどれだけあるか」を洗い出すところからです。
まず棚卸し。業務の一覧はAIに作らせる
引き継ぎ書を書き始める前に、自分がやっている業務が何本あるかを一覧にします。ここを自分の記憶だけでやると、必ず抜けます。
材料にしたのは次の4つです。
- 業務フォルダの中身
- 自分のメモ
- 業務用カレンダーの予定
- 自分への聞き取り(思い出しながら口に出す)
この4つをAIに読ませ、業務一覧を作らせます。フォルダをまとめて読み込めるのがエージェント型AIの強みで、ファイルを1つずつ貼り直す手間がありません。
このフォルダの中の資料と自分のメモ、添付のカレンダーの予定、
私が思い出しながら話した聞き取りメモを読んで、
私が担当している業務の一覧を作ってください。
出す項目は次の5つ
- 業務名
- 頻度(毎日・毎週・毎月・不定期)
- 期限やタイミング
- 関係者(部署名・役職名まででよい。個人名は不要)
- 使っているツールやシステム(あれば)
条件
- フォルダに書かれていない業務を想像で作らない
- 判断できない項目は空欄にする
ChatGPTなどチャット型のAIを使う場合は、フォルダを読み込めないので、資料やメモの中身を貼り付けてから同じ指示を出します。
この一覧を眺めているだけで、思っていたより業務の数が多いことに気づきます。実際にやってみると、伝えておくべきなのに自分では整理できていなかった細かい書類の場所が、材料から芋づる式に出てきました。「あの書類、どこにあったか」と聞かれて初めて思い出すような代物。フォルダとメモを並べて読ませたことで、それが先に出てきた形です。抜け漏れは、思っていたより結構ありました。
この棚卸しは、引き継ぎ相手のためだけの作業ではありません。自分の業務を見返す機会にもなります。異動が決まっていなくても、一度やっておく価値があります。
判断はAIに聞き出させる
業務一覧ができたら、次は1つずつに「判断基準・落とし穴・期限と提出先」を書き足します。ここが本題です。
自分で書こうとすると、これがなかなか出てきません。頭の中にはあるのに、書く欄を前にすると「特に決まりはない」と流してしまう。長年やっている業務ほど、当たり前になっていて言葉になりません。
そこで、AIに聞き役をやらせます。自分は答えるだけにします。
あなたは私の後任として異動してくる職員です。
これから業務を1つずつ挙げるので、次の3点を必ず質問してください。
1. この業務で、状況によって判断が変わる場面はどこか。
その判断基準は何か
2. 過去に間違えたことがある、または間違えやすい点はどこか
3. 期限はいつで、誰に(どの部署・役職に)提出するか
私が答えたら、その場で要点を整理して書き出してください。
曖昧な答えのときは、具体的になるまで聞き返してください。
このプロンプトは会話だけで進むので、チャット型のAIでもそのまま使えます。
聞かれると、答えが出てきます。実際にやってみて言葉になった例が、利用者さんの受け入れ基準です。頭の中には全体像があり、「この場合はこう」と個別には対応できていました。でも、それを文章にしたことは一度もなかった。質問されて初めて、自分の中の基準を言語化する形になりました。
聞き出した内容の中には、個人が特定できる情報が混ざることがあります。利用者さんや職員個人が分かる書き方になっていないか、書き出したあとに必ず見直してください。
自分で書こうとしても出てこないものは、聞かれて初めて出てくる。この順番を守るだけで、引き継ぎ書の質が変わります。
ツールは「動かないときの手作業」を書く
業務でツールや自動化の仕組みを使っている場合、書くべき本体はツールの使い方ではありません。そのツールが止まったとき、代わりに何をするかです。
自作の集計ツールや、自動で送られる通知ほど、動いている間は誰も手順を意識しません。止まったときに初めて、代わりの手作業が必要だと分かります。この代わりの手順が書いてなければ、後任は詰みます。
大事なのは操作画面のスクリーンショットではなく、「動かないときはこうする」の1行。引き継ぎ書には、こちらを先に書きます。
手順書が十数本になったら、AIに横断点検させる
業務ごとに手順書を書いていくと、十数本になります。ここで出てくるのが新しい問題。手順書どうしで内容が食い違っていたり、期限が矛盾していたりする箇所です。1本ずつ書いているうちに、他の手順書との整合を見落とします。
これは人がひとつずつ読み返すより、AIに横断で読ませたほうが早い作業です。
このフォルダにある手順書をすべて読んで、次を洗い出してください。
1. 同じ業務について、手順書間で内容が食い違っている箇所
2. 別の手順書へのリンクや参照が、実在しない・古いもの
3. 期限や締め日が、手順書間で矛盾している箇所
出し方
- ファイル名と該当箇所を指定して報告する
- 断定できない場合は「要確認」として報告する
十数本まとまった段階でこれをやると、書いている本人が忘れていた矛盾がいくつも出てきます。全部を目で読み返すより、はるかに短い時間で済みます。
渡したかどうかは、チェックリストで日付を入れる
引き継ぎ書ができても、それを渡したかどうかは別問題です。渡した・読んだ・分かった、の間には差があります。ここを見える形にするのがチェックリストです。
項目ごとに、次の3つの日付を入れます。
- 説明した(日付)
- 一緒にやった(日付)
- 一人でできた(日付)

3つとも埋まっている項目は安心できます。「説明した」だけで止まっている項目があれば、そこが引き継ぎの抜けです。日付という数字にすることで、感覚ではなく表で抜けが見えます。
あわせて、異動日までの数週間に「どの業務を、いつ一緒にやるか」を並べた段取り表も作ります。月末の締め作業など、実際に一緒にできるタイミングを軸に組むと、「一緒にやった」の日付が無理なく埋まっていきます。
仕上げは「聞ける形」にして渡す
引き継ぎ書と手順書がそろったら、最後に渡し方を決めます。紙やファイルのまま渡すと、後任は必要なときにどこを見ればいいか分からず、結局は聞いて回ることになります。
これを、Gemini Notebook(旧NotebookLM)に入れて、後任が自分で質問できる形にするやり方があります。入れるものの線引きや、想定質問と○△×での確かめ方は、社内マニュアルをGemini Notebookに入れる記事にまとめてあるので、ここでは繰り返しません。
ひとつだけ、ここでも書いておきます。パスワードやログインの情報、個人が特定できる情報は入れません。 紙と口頭での直接渡しが基本。便利さより、この線を先に決めておくほうが大事です。
引き継ぎ以外にも効く。委員会・係の仕事の整理
この形は、異動の引き継ぎだけに使うものではありません。
病院や施設には、委員会や係のように、メンバーが定期的に入れ替わる仕事があります。表立って引き継ぎ資料が共有されていないことも多く、次の担当者が毎回ゼロから覚え直しているケースは少なくありません。
AIなしでこの整理をやろうとすると、作業工程を洗い出すだけでかなりの手間がかかります。エージェント型AIに任せると、材料を読んだうえで手順や進め方そのものを提案してくれるので、抜け漏れがあっても大枠は一人でやるより明らかに質の高いものになります。工程を整理する係を1人分増やすような感覚です。
委員会や係の仕事も、業務としては同じ構造です。棚卸し→判断を聞き出す→横断点検、という順番はそのまま使えます。
入れてよい情報の線引き
ここまでの作業で、業務の内容や自施設の情報をAIに入れる場面が出てきます。個人情報や機微な情報をどこまで入れてよいかの判断基準は、医療介護現場でAIを使うときのルール5つに整理してあります。迷ったらこちらを先に確認してください。
まとめ
- 引き継ぎで失われるのは手順ではなく判断。判断基準・落とし穴・期限と提出先の3点セットを書き足す
- 業務の一覧はAIに作らせる。フォルダ・メモ・カレンダーを材料にすると抜けが見える
- 判断は自分で書くより、AIに聞き出させたほうが言葉になる
- ツールは操作方法より、動かないときの手作業を書く
- 手順書が増えたら、AIに横断点検させて食い違いや期限の矛盾を探す
- 渡したかどうかは「説明した・一緒にやった・一人でできた」の3つの日付で見える形にする
- 仕上げは聞ける形にして渡す。パスワード・ログイン情報・個人情報は入れない
- 同じ形は委員会や係の仕事の整理にも使える
異動が決まったら、まず業務フォルダを1つ開いて、AIに業務一覧を作らせてみてください。そこから、判断を聞き出す作業に進めます。
引き継ぎのような仕事を職場全体でAIに任せていくなら、使い方を学ぶ場も必要になります。その手段の一つが、生成AIスクール。受講料は、職員本人が在職中なら教育訓練給付、施設が負担するなら人材開発支援助成金で軽くできる場合があります。どの制度が使えるかは、立場によって違います。
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